地球惑星科学専攻(地質学鉱物学分野)・教授 河上 哲生
46億年にわたる地球の営みは、主に大陸地殻の岩石に記録されている。プレート収束帯では、海洋プレートが他のプレートの下に沈み込んだり大陸同士が衝突したりする。この過程で地下深部にもたらされた岩石は、新しい温度-圧力条件下におかれた結果、その条件で安定な鉱物集合体に再結晶する。こうしてできる変成岩は、人類がボーリング調査で未到達の深さの固体地球の状態を、構成鉱物種、反応組織、化学組成や同位体組成などの形で記録する。そして表層の削剥や断層運動に伴い、地表に露出するに至る。
世界各地で超高圧変成岩が継続的に形成され始めることから、約7億年前には現代型のプレートテクトニクスが始まっていたとされる。このため熱機関としての地球の挙動はこの7億年で大きく変化しておらず、7億年前以降に形成された変成岩は、現在の衝突帯や沈み込み帯の地下で起きているのと同じ物理化学現象を記録しているであろう。
私は南極やヒマラヤなど、変成岩が地表に広く露出する地域を調査し、そこで採取した岩石を用いて、大陸地殻下部のマグマ発生場や地震発生場で実際に起きている物質科学的プロセスを、できるだけ高い時空間解像度で読み解く研究を行っている。私の研究の両輪は、「研究地域の形成テクトニクスの理解」と「一般性のあるプロセスの理解」である。後者については、部分融解メルトが鉱物に取り込まれた「ナノ花崗岩包有物」を用いたマグマ生成過程の研究や、延長100 km以上の剪断帯に沿った塩水流体活動の研究を、ヒマラヤと比較しながら進めている。ヒマラヤと比較する理由は、現在も衝突が進行する場であるため、震源分布や電気伝導度構造などの観測データが充実しており、地質学的知見を現在の地殻深部現象とリンクして考える材料が豊富だからである。総合的視点からの地球の理解は今後ますます重要になる。引き続き広い視野を持って地球システムを理解する研究を展開していきたい。